今回は国際貿易体制について。政経講義56で戦後の国際経済体制について紹介しましたが、並行する形で貿易体制の変化も抑える必要があります。紹介する時代も同時期になりますので、経済体制と貿易体制を関連付けながら理解していきましょう。
▼GATT(関税および貿易に関する一般協定)
自由貿易に向かった背景
背景として1930年代の話からしていきます。世界は世界恐慌による不況期の真っただ中で、先進国は自国経済の保護に奔走していました。それまである程度活発に行われていた貿易は停滞し、殻にこもってしまいます。各国は自分の植民地以外には高い関税をかけ、貿易を阻止する「ブロック経済」を行いはじめました。イギリスが始め、アメリカ、フランス、ドイツ、日本と続いて壁を構築していった訳ですが、ここに大きな差がありました。前者の英米仏は”植民地をもつ国”であったのに対し、日独は“植民地をもたない国”。結果、日独は植民地獲得に向けた侵略戦争を仕掛け、第二次世界大戦へと繋がっていくことになります。
要するに、経済の停滞・貿易の停滞が世界を巻き込む戦争に繋がってしまったといっても、過言ではありません。二度と同じ過ちを繰り返してはいけない反省から、戦後には自由貿易の拡大を目指す動きが高まります。結果結ばれたのが、1947年のGATT(関税および貿易に関する一般協定)であり、目的は「貿易の自由化」でした。
GATTの三原則
GATTの三原則は以下の表の通りです。
自由貿易を推進すること、それを多国間で交渉すること、特定の国を差別しないことの3点。補足をすると、無差別を徹底する手段が、表にある最恵国待遇(良い条件をすべての加盟国に適用)だけでなく、内国民待遇(国内において輸入品を不利に扱わないこと)もあることを抑えておきましょう。また例外として、発展途上国を優遇する一般特恵関税、国内産業の損害を防ぐために一時的に行う輸入制限(=セーフガード)などは認められていることに注意してください。
ちなみに日本では、2001年に中国からの生シイタケや長ネギ、2003年の輸入牛肉などでセーフガードが発動されています。
▼GATTで行われた交渉(ラウンド)
ラウンドとは、多国間での交渉を行うこと。開かれた状態で交渉を行い、特定の国に有利不利が生じないようにしています。いくつかのラウンドが実施されていますが、よく出るのは1990年前後のウルグアイラウンドです。内容まで抑える必要があります。
ケネディラウンド、東京ラウンド
第6回、7回にあたるケネディラウンド、東京ラウンドは、主に鉱工業製品の関税引き下げを目指したもの。これ以上の内容は問われない。
ウルグアイラウンド(1986~94)
ラウンドの中で最も重要なのが1986年から開催されたウルグアイラウンド。ここでは大きく制度が動いており、大学入試においても狙われる部分になります。上の表に書いてある通り、農作物の関税化(自由化)、サービス貿易・知的財産権に関する協定締結、WTOの設立合意が主な決定事項であり、これによって91年に牛肉・オレンジが関税化(自由化)されています。
関税化とは、数量制限や最低輸入価格などの関税以外の壁(=非関税障壁)を全て除いた状態を指します。関税をかけるという最低限のハードルで貿易が出来るようになるため、自由化とも言います。日本のコメについても、1999年に関税化が始まっています。
▼GATTからWTOへ
ウルグアイラウンドにおいて、WTO(世界貿易機関)は1994年に設立合意され、翌年にスイスへ設立されました。GATTの意思を引き継ぐ正式な組織として、新たな活動が進められています。WTOとWHOが間違いやすいですが、TはTrade(貿易・交換)、HはHealth(健康)を意味していることを覚えて、区別できるようにしましょう!
ここで新たなルール作りを目的として始まったのが、2001年からのドーハラウンドです。しかし、先進国と発展途上国の対立、先進国同士の対立が埋まらずに、現在でも合意に至っていません。世界共通の一体性を求めることが難しく、近年は各地域での協定締結(FTAやEPAなど)が主流となってきています。第二次世界大戦の失敗を繰り返さないためにも、各国の歩み寄る姿勢が求められています。
▼まとめ
以上が国際貿易体制についてのポイントになります。冒頭にも書いたように、国際経済体制とリンクさせながら、流れを掴んでいきましょう。
読んでいただきありがとうございました。
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