公共授業ネタ22 模擬裁判(リアルver.)をやってみよう

教員向け投稿

はじめに

新たな教科として始まった公共。今後入試科目として組み込まれることが決まった以上、入試問題によって授業のあり方も変えていかなければならないとは思っています。しかし、せっかくの新科目なので新たな挑戦ができればとも思っています。

私の意識としては、1時間のうちに作業できる時間を10分~15分(50分授業のうち)確保したいという目標を持ちながら、授業作りを進めています。実践した中で手応えのあったものを、本サイトでも紹介していこうと思います。参考になれば幸いです。

作業ネタの設定単元

今回の作業ネタは、裁判員裁判の授業で実施しました。実は模擬裁判に関しては「授業ネタ05模擬裁判をやってみよう」で一度投稿しているのですが、今年はよりリアルさを追究したバージョンとして、新ネタを投稿することにしました。前投稿も合わせて参考にしていただけると良いと思います。

裁判員裁判の開始に伴い、授業でもよく実施されるようになった模擬裁判。前回よりもリアルさを出すために、裁判所が公開している判例集から教材を作成してみました。多少模擬裁判がしやすいように表現を加筆修正している点はあるので、”ほぼ”ノンフィクションの教材です。(令和6年9月19日 大阪地方裁判所での傷害致死等の判例を使用)模擬裁判の実施に1時間、振り返りに0.5時間が目安です。

作業の流れ

(ⅰ)裁判の内容・証拠の整理

今回の模擬裁判は、検察側・弁護側・裁判官側の3つの立場に分かれ、グループ内で議論する形を取ろうと思います。検察側は被告人の有罪を、弁護側は被告人の無罪・減刑を、裁判員は公正な審判を目的として、事例・証拠の整理をさせていきましょう。

今回扱う事件は、被告人AがBへ暴行を加え、殺したのではないか?という傷害致死の疑いをかけられたものです。自白や状況から暴行を加えた事実はありそうですが、いずれも決定的な証拠がない状況です。殴打したことによって亡くなったのか、自らで転倒して頭をぶつけたのか、もしくは他の誰かに暴行を加えられたのか、という点が争点になります。傷害致死罪なのか傷害罪なのか、さらには無罪という可能性もあります。それぞれの立場でどのように主張を展開するか、状況整理をさせていきましょう。

(ⅱ)検討のポイント

事件の内容・証拠の整理で約5分、その後どのように主張を展開するかを5~10分程度で考えさせました。検察官側は、いくつかの証拠を組み合わせ、被告人の傷害致死を確実なものへ主張していきます。それに対し弁護側は、被告人がBの死に繋がる暴行を与えていない可能性を主張し、傷害罪への減刑や無罪を目指していきます。感情的には被告人がやっただろうと思いがちですが、裁判員は「推定無罪の原則」を意識して冷静な審議を心がけさせましょう。

今回の争点となりうるポイントをいくつか紹介します。

・死亡推定時刻が広すぎて、様々な行動パターンが想定できる。
・事実①→傷を受けてしばらくは生きていたことから、空白の時間が存在する。
・事実②→傷の様子だけでは、殴打か酩酊状態よる転倒かが断定できない。
・事実③→争った形跡がないことから、殺意をもって激しく攻撃したとは考えにくい。
・事実④→被告人Aも被害者Bも、酩酊状態であったことは確実。
・事実⑤→隣人の証言で嘘をつくとは考えにくい。これらの物音は普通の生活で発生するものではないので、何かしらのトラブルがあったことが予想される。
・事実⑥→一貫性が無い供述は証拠として弱い。Bが亡くなったことを知って供述を変えたという行為は、自分が殺人罪に問われるのが怖くなり、殴ったことだけを認めたのか?(「殴ったけど、死亡させたのは私ではない!」)
・事実⑦→Bが殴られた後も酒を飲んでいたという証言が正しければ、軽い取っ組み合いに過ぎなかったと考えられる。殺意があればとどめをさしているはず。そもそも自分も酩酊状態だったことから、判断能力の欠如が認められる。
・事実⑧→この証言が本当ならば、被告人Aとは別の人物から暴行を受けた可能性も捨てきれない。
・事実⑨→前科の多さも印象は悪いが、本件とは無関係のこと。

以上の事実より、被告人Aが暴行を加えたことでBが亡くなった可能性は高いものの、Aの暴行が死に直結していない可能性も捨てきれない。本件は無罪となっています。

本当に…⁉と思って、結果を伏せてプリントを弁護士の友人に見てもらいましたが、「これは無罪っぽいね…」と言われました。やはり「証拠が決定的で無い点」「自白に一貫性がなく証拠として利用できない」「酩酊状態であることは確実で責任能力がなかった」という点から、有罪にするのは難しいようです。

(ⅲ)模擬裁判の進め方

進め方はプリントに書いてある通りですが、時間帯は様子を見ながら臨機応変に対応してください。私は、検察側の主張(3分)→弁護側の主張(3分)→自由に質疑応答(8分)というような形で実施しました。

生徒の判断では、傷害致死罪か傷害罪で意見が二分されましたが、無罪とまで判断する班はごくわずかでした。「唯一の証拠が本人の自白の場合は無罪」「疑わしきは罰せず」「推定無罪」「証拠主義」という授業で習った考え方を頭に入れていけば、無罪という判断もできたかもしれません。

まとめ

これまでさまざまなパターンで模擬裁判を実施してきましたが、手ごたえとしては過去最高と言っても過言ではありません。絶妙に刑事裁判の原則を考えさせられる内容となっており、議論の結果も多様なものが期待できます。ネタに困っている先生方は、ぜひ使っていただきたいです。

実施した後の反省点

かかった時間

事例の審議(15分)、グループ内の議論(15分)、各班の発表で10分程度。その後、どのような理由でこの判決に至ったか?という深堀りをしていくと、1時間ではおさまらないと思います。私は2時間目に各班の主張の整理をして、最後に結果発表。補足として授業で学んだ内容とリンクさせて締めくくりました。所要時間は全部で1.5時間です。

よかった点

裁判結果に驚きがある分、推定無罪や証拠主義の重要性が実感できると思います。さまざまな事実を準備したことで、攻め方守り方も多様になるので、教材として面白い事例を選べたなと思います。

授業プリントについては、本サイトの「授業プリントのページ」にて掲載されています。R6公共プリント30「模擬裁判」を、よかったら参考にしてください。質問等ありましたら、お気軽にコメント欄へお書きください。

授業プリントも参考にしてください!→プリントダウンロード

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