このシリーズでは、単元別講義とは別に、入試によく出る部分をより深く掘り下げる記事を作成していきます。図解とともに根本的な理解ができるよう工夫していきます。今回は「法の下の平等」の範囲で登場する「外国人の人権保障」というテーマについてピックアップしました。最後まで読んでください!「法の下の平等」を解説した記事はこちら↓

外国人の人権保障は?
日本における現状と課題
現代社会では、人権は国籍を持つか否かにかかわらず、すべての人に保障されるべきものという考え方が国際的に確立しています。しかし、国家の主権に基づき、外国人(日本国籍を持たない人)の権利保障については、日本人(自国民)と異なる扱いが認められる場合があります。
日本国憲法は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」として保障しており、外国人にも原則として適用されると解されていますが、国民としての地位(国籍)と密接に関連する権利は、外国人には保障されない、または一定の制限を受けることもあります。内容によって許容される範囲が異なるため、入試にも出題されやすい部分です!

| 権利 | 内容 | 外国人への適用 |
| 参政権 | 選挙権、被選挙権などの政治に参加する権利。 | 憲法上は保障されない(国民主権の原理)。ただし、地方参政権については、特別法で認める場合がある。 |
| 公務就任権 | 公務員に就任する権利。 | 制限を受ける(公務員の職務の公共性、国籍条項の存在)。ただし、非権力的な職務については緩和の傾向がある。 |
| 入国の自由 | 外国から日本に入国する自由。 | 保障されない(国家の出入国管理権)。外国人は在留資格が必要。 |
| 再入国の自由 | 適法に在留する外国人が一時出国し、再入国する自由。 | 原則として保障される。 |
特に選挙権に関しては、国政選挙や地方議会・首長を決める選挙などでは一切認められたことがないため注意しましょう。(※一部の地方自治体のみで実施される住民投票で、過去に外国人の選挙権を認めた事例はある)
外国人の人権保障をめぐる具体的な課題
外国人労働者や留学生の増加に伴い、彼らの人権保障に関する課題が顕在化しています。近年の流れとしては、労働者の人手不足問題を背景に「外国人労働者」を拡大させる動きが進みました。2018年の出入国管理及び難民認定法の改正が主たる例で、日本に滞在できる規制を緩和させる動きが起きています。
一方で、治安悪化や不法滞在など、制度を悪用される事例も増えてきたことにより、今後の見直しが必要な部分もあるかもしれません。
労働の課題
技能実習制度
外国人が単純労働を目的に入国することは禁止されており、代わりに開発途上国への技能移転を通じた国際貢献を名目に、技能実習制度という制度が実施されています。最長5年間の在留が認められ、日本で得た技術を母国に持ち帰ってもらうという目的がありますが、一部では低賃金で劣悪な労働環境を課している問題も発生しており、制度の見直しが進んでいます。
特定技能制度
日本国内で人手不足が深刻な産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れることを目的に、2018年の入管法改正で始まった制度です。介護、建設、農業、飲食料品製造などの12分野を対象に、技能水準と日本語能力の試験が必要になります。技能実習生が次のステージに移行する制度としても活用され、実習生に比べて労働者としての権利保障が改善されています。
| 特定技能1号 | 介護・農業・建設などの「相当の知識・経験を要する」14業種は最長5年 | ※家族の帯同× |
| 特定技能2号 | 1号からさらに合格した場合、期間制限なし(事実上の永住資格) | ※家族の帯同〇 |
社会保障の課題
生活保護:法律上は日本国民に限定された制度であり、最高裁判所でも外国人を対象としない見解が出されています。(2014年)しかし実際は人道上の見地から、生活に困窮する外国人を放置することはできない、という考え方に基づき、自治体レベルで実施されています。
社会保険:国民健康保険や年金への加入は義務付けられていますが、短期滞在者や、非正規雇用者への保障の適用について課題があります。
教育・文化の課題
多文化共生:外国人児童・生徒への日本語指導や、出身地の文化・習慣を尊重する多文化共生社会の実現に向けた取り組みが求められています。
公教育:公立学校における義務教育は、日本国民の権利かつ義務であり、外国人には適用されませんが、実際には教育を受ける権利(子どもの最善の利益)の観点から入学が広く認められています。一方で、地域によっては半数が外国人生徒となる学区などもあり、通常の学習指導が困難な問題もあります。
出入国管理と人権
在留資格:外国人は「出入国管理及び難民認定法(入管法)」に基づき、定められた在留資格と在留期間内で生活することが求められます。
難民認定:迫害のおそれから逃れてきた人々を難民として受け入れる制度があり、国際的な人権保障の観点からその運用が注目されています。認定手続きの透明性や、申請者の人権(送還の原則の停止など)の保護が重要な課題です。
指紋押捺問題:日本へ入国する外国人に対して、指紋や顔写真の情報提供を義務付ける制度。プライバシーの観点から一時実施しなかったものの、テロ対策として再開していることを抑えておきましょう。

まとめ:今後の展望
国際化が進む現代において、外国人の人権保障は、もはや「他人事」ではなく、日本社会全体の課題です。外国人が安心して生活し、その能力を発揮できるような法制度と社会環境を整備していくことが、国際社会における日本の責務であり、持続可能な社会の実現に不可欠だと言えます。
一方で、外国人の保護を手厚くしていくことで、日本国民が不利益を受けることがあれば、新たな偏見や不信感、分断を生み出すことにもなります。難しい問題でありますが、極端な考え方は危険であり、政策についても、私たちの考え方についてもバランス感覚が求められる内容といえるでしょう。
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