戦後、日本は「戦争をしない国」「武力を持たない国」として再出発を図ることになります。では、今編成されている「自衛隊」はなぜできたのでしょうか?なぜ、アメリカ軍の基地が日本国内にあるのでしょうか?戦後から80年、時代が進むとともに平和主義のあり方も変わってきたことを、抑えていきましょう。
戦後日本は、アメリカの指示のもとで徹底した非軍事化を求められました。それに従う形で、憲法にも「戦争放棄」「武力の不保持」を記載し、徹底した平和主義を保障する国として再スタートしました。
しかし、戦後すぐに米ソの対立が表面化し、冷戦が勃発することになります。1950年には日本のすぐ近くである朝鮮半島を舞台に、米ソの代理戦争という形で朝鮮戦争が発生しました。アメリカは日本に対して軍備の放棄を指示していましたが、この戦争によって風向きが変わっていきます。
朝鮮半島といえば、日本の隣に位置しており、福岡からなら東京よりも早く着くくらいの位置関係です。アメリカにとっては、戦場のすぐ近くに、自分たちの子分がいる…という状態なんですね。アメリカは対日政策を転換し、日本に防衛力の強化を求めました。
同年、マッカーサーの指示で1950年に警察予備隊が発足し、2年後の1952年には保安隊が発足、さらに2年後の1954年に自衛隊が発足しました。朝鮮戦争をきっかけに、1950→1952→1954と2年ごとに発足したと覚えておけばよいので、ここはぜひ暗記してください。
アメリカとの関係を語るうえで欠かせないのが、日米安全保障条約です。1951年に制定された旧条約と、1960年に改定された新条約との比較は整理しておきたいポイントです。
まず締結された旧安保条約は、米軍の日本駐留を認めた点がメインです。そのため、米軍が日本を防衛する義務は明記されておらず、不平等との指摘がありました。まだ戦後間もない頃ですから、敗戦国の日本は従うしかなかったのかもしれません。
しかし、1950年代後半にはソ連との国交を回復し、国連に加盟します。経済的にも徐々に復活の兆しが見えてきたところで、日本としては米国との不平等な安保条約を改正したい思いがありました。これに尽力したのが岸信介内閣であり、元首相の安倍晋三氏の祖父にあたる人物です。
新安全保障条約は、両国の関係をより密にするものであり、米国の共同防衛義務を明記します。つまり、「米軍基地を提供する代わりに、日本国内や周辺地域(極東)の平和を守る行動もしてくれよ?」ということです。重要な変更がある場合には、事前協議を必須とすることも明記しています。(事前協議制)
一方で、この条約制定の際には、「条約を適用する【極東】がどの範囲なのか?」「共同防衛義務があるため日本が戦争に巻き込まれるリスクはないか?」など、多くの議論を巻き起こしました。日本の平和主義が危ういと考えた反対勢力が激しいデモ運動を起こし、運動に巻き込まれて死者が出るほどの事件となりました(安保闘争)。岸内閣はこの騒動の責任を取り、条約締結後に総辞職しています。以降10年ごとに延長する約束が現在まで継続されています。
それ以降は、日本有事への対応として、ガイドライン制定(1978)、アジア太平洋地域に安全保障体制を維持するためにガイドライン改定(1997)、地球規模で日米協力を強化するためにガイドライン再改定(2015)と、徐々に協力範囲を広げてきています。北朝鮮のミサイル発射やテロ発生、国際紛争の激化など、悪化する国際情勢の中で、法律も変化してきたということです。
最後に年表を示すので、流れを再確認しておきましょう。
冷戦終結後、それまで二国に隠れて表面化していなかった衝突が発生し、各地で地域紛争が発生しました。特に1991年の湾岸戦争では、クウェートへ侵攻したイラクを止めるため、アメリカを中心とする多国籍軍が派遣されています。日本は平和主義の国であるため、資金援助に留めましたが、「金だけ出して人を派遣しないのか?」という意見が国際的に起こります。これを契機に自衛隊の国際貢献のあり方が見直され、翌年1992年にはPKO協力法が成立。同年、カンボジアへ自衛隊初の海外派遣を行っています。
2000年代以降は、北朝鮮のミサイル発射や核開発、アメリカ同時多発テロ、ロシアとの北方領土問題、ウクライナ侵攻、日韓関係悪化など、日本周辺だけでも国際情勢の不安定さが露呈しています。平和主義を掲げる中で日本が世界平和のためにできることは何でしょうか?それを模索しながら日本の防衛政策は変化し続けています。
現在の平和主義に関する話題は、次の投稿で詳しくしていきます。(政経講義08平和主義の現状)
最後に、平和主義に関連する判例をいくつか紹介して締めくくりとします。特に右上の緑の文字に注目していただきたいのですが、同じ平和主義の判例でも、日米安保条約や米軍について争われたものと、自衛隊そのものについて争われたものに分けられるので、注意して見てください。
以上の判例から分かる通り、自衛隊や米軍基地について最高裁が何かしらの判断を下した事例は歴史上ありません。高度に政治的な問題として司法判断を避ける、統治行為論が採用されることが多いです。
この単元は非常に内容が濃いので、演習をしっかり行い知識の定着に努めて下さい!ご覧いただきありがとうございました。